いっぴきオオカミは たびのとちゅうで ちいさな いずみを みつけました。

 すきとおったみずは、ひのひかりに、あおく かがやいています。

「のどが かわいたな」

 オオカミは、ひとすくいの みずをくちにしました。

 すると、びっくり。

「このみずは しおっからいぞ」

 オオカミは、めをまるくして、いずみのそこを のぞきこみます。

 そこには、なにやら ちいさな、くろいかげ。

「あれは なんだろう」

 オオカミは、いずみのなかへ とびこみました。

 ブクブクブク……

 しずかな しずかな いずみに、いくつも のあわが のぼっていきます。

 オオカミが、ずんずん もぐっていくと そこには くろいこねこ。

 ブクブク あわのおとに おどろいて、オオカミを みあげました。

「あなたは ぼくを たべにきたの?」

 ふるえながら ないているのです。

「おまえは ずっと ないていたのか?」

 こねこは もう なにも いいません。

 ただただ こわくて なくばかり。

 あきらめたオオカミは きしにあがると、また たびを つづけることにしました。

 けれど、オオカミには、きになってしかたがありません。

「あのいずみは こねこのなみだで しおっからいのか?」

「なんで あのこねこは あんなに ないているんだ?」

 ぶつくさ ぶつくさ。

 

「ええい! しょうがない」

 オオカミは たちどまると きたみちを もどりはじめたのです。

 いずみのなかへ とびこんで、

 ブクブクブク……

「おれは おまえを たべないぞ」

 こねこは ふるえて なくばかり。

 いずみのなかへ とびこんでは

 ブクブクブク……

「どうして ないているんだ」

 とびこんでは ブクブクブク……

 とうとう よるになってしまいました。

「おれは いったい なにを してるんだろう……」

 いちばんぼしを ながめながら、オオカミのめに なみだ……。

 すると ながれぼしが ひとつ。

 なみだみたいに つーっと、おちてきて、オオカミのなみだに すいよせられます。

「あっ、まぶしい!」

 そのとたん オオカミのすがたは ちいさなさかなになったのです。

 さかなになったオオカミは、いずみのなかに とびこみます。

 すいすい、およぎながら、

「おれは なんて ちいさくて たよりなくて こころぼそいんだ」

 ついーついーと なみだを こぼしました。

 ついーついー。

「ああ、こねこも おれとおんなじ きもちなんだな」

 さかなになったオオカミは そーっと こねこに よりそいます。

「あなたは だあれ?」

 でも さかなになったオオカミには ことばが はなせないのです。

 ついーついー。

 さかなのなみだを みると、

「あなたも ぼくと おんなじなの?」

 それから こねこも さかなも なくのを やめました。

 ちいさくても いっしょにいると こころづよかったのです。

 ところが こねこが なきやんだとたん、いずみのみずが ひあがっていくのです。

 そうして とうとう こねこは みずから かおを だし、ほんのぽっちりの みずたまりのなかで、ちいさなさかなは アップアップ。

「どうすればいいの?」

 こねこは また なきだしてしまいました。

(なかないで! なかないで!)

 オオカミは、こころのなかで、さけびます。

 そのこえが とどいたのでしょうか。こねこは、なきながら、

「だって だって あなたまで ひあがってしまう!」

 すると つーっ。

 ながれぼしが なみだに すいよせられました。

 そのまぶしさに、こねこは、めをつむります。

 そして、つぎに、めをあけたときには、

「あっ!」

 そこにいたのは オオカミでした。

 さかなになったオオカミが、こねこのなみだで もとにもどったのです。

「おれは おまえを たべないぞ」

「わかってる」

 いっぴきオオカミは たびにでます。

 そのうしろには くろいこねこが、そーっと よりそっていたのでした。

            [おしまい]

 

コメント: 1
  • #1

    しがみねくみこ (木曜日, 29 12月 2022 22:00)

    初期の作品ですが、大好きな作品です。(*^_^*)