チリチリと風鈴は鳴りました。
パサパサとタオルが風になびきました。
つりさげられたままの風鈴と、干されたままの一枚のタオルは、引越しの忘れ物。
「私をつりさげたときには、いい音だって喜んでもらったわ」
「朝、寝ぼけたおチビちゃんたちの顔をくるんであげるのは、楽しかったなぁ」
風鈴とタオルは、そんなことを話していたのです。
「忘れられたね」
「ええ、忘れられちゃった」
風のやんでいるときには思いにふけり、風が吹けば風鈴とタオルはおしゃべりをします。
風はだまって、その話を聞きながら通り過ぎていました。
台風の夜もありました。
雨に濡れたタオルは、バシバシ音を立てながら飛ばされないよう物干しにしがみつきます。
「おおい、だいじょうぶかぁ」
「飛ばされてしまいそうよぉ」
風鈴も雨に濡れたこもった音で、リリリと悲鳴をあげています。
やがて雨がやむと、風の中で無事を喜び合いました。
「まったく、タオルじゃなくてぼろ雑巾だよ」
「ふふふ。私は洗われて少しはきれいになったかしら」
「うん。いい音だ」
チリリチリリと、風鈴は歌いました。
秋も深まると、もう昔のことを思い出すこともなくなりました。
それよりも流れる雲や色づく木の葉を見ながら、次に風が吹けば何を話そうかと考えていたのです。
「秋に風鈴の音は似合わない?」
「いい音だもの、一年じゅう聞いていたいさ。それより、ぼくの方は何の使い道もないな」
「私の音を聞いてくれるわ。ひとりぼっちで鳴っているんだったら、どんなに寂しかったかしれない」
そうして、冬も過ぎていきました。
どんなに風が吹こうともしがみついていた風鈴は、ある日、地面に落ちて砕けてしまいます。
パリンと鳴いたまま、もうそれっきり。
つりさげていた糸が、くちはててしまったのです。
灰色に薄汚れたタオルは、パサパサとなびきました。
けれど、もうチリチリと鳴る風鈴の音は二度と聞けませんでした。
楽しかったおしゃべりも出来ません。
やがてタオルをとめていた洗濯バサミもくちはてる時が来ました。
風がタオルを誘います。
「どこか遠くまで飛ばせてあげよう」
「ああ、それならば……」
砕けた風鈴の上まで飛ばせて欲しいとタオルは頼みました。
風がうなずくと、タオルはふわりと飛びました。
「きみのそばに来たんだよ」
すると、懐かしい音が聞こえるような気がします。
「来てくれたのね」
それは、心の中だけに聞こえる声でした。
雨が降ると、タオルはしっかりと風鈴をくるみます。
それからずっと、おしゃべりを続けていたのです。
もう風がなくても、いつでも、いつまでも話すことができました。
だれにもわからなくても、だれも知らなくても、忘れられた風鈴とタオルは、いつまでも幸せだったのです。
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しがみねくみこ (土曜日, 25 3月 2023 23:01)
めっちゃ、嬉しい!
ありがとう、ちさちゅん。(*^_^*)
ほんとに、そう思います。
芸術は、爆発じゃ!
じゃないけど、自分の世界を見失ったら、迷子になるよね。
文学も、絵画のように自由になれたら、もっと愛される気がします。
あ、偉そうなこといっちゃった。(*^_^*)
ちさちゅん (土曜日, 25 3月 2023 21:58)
そんなジャンルとか必要ないと思うよね。
大人も子供も共感できる素晴らしいストーリーなんじゃないかな。
なんて思います。
いつからそんな窮屈になったのかしら。
しがみねくみこ (土曜日, 25 3月 2023 19:29)
こすちゃん、ありがとう!
いつもいつも、励まされます。
あの日、「大人の童話の分野は、今は文学界ではないからなぁ」 と、先生がおっしゃって、そこへすかさず、「でも、私は大好きなんです」 と、その方が先生に断言してくださって、私の作品について、いっぱい話してくださって。先生も最後には、「そんな分野も出てくるかもしれないなぁ」 と、おっしゃってくださいました。
もう、そのやりとりに、ぼーっとしてしまって、嬉しくて記憶がなくなるくらいで、あとから同じ参加者の人に、確かめたくらいでした。(*^_^*)
こすもす (土曜日, 25 3月 2023 18:00)
私も大好きだよ~♡
しがみねくみこ (木曜日, 23 3月 2023 21:18)
東京で行われた公募ガイドの受賞セミナーに行った時の二次会で、参加した受賞者の方に、有名な作家先生の前で、大好きだといってもらえた忘れられない作品です。忘れられたものたちですが。(*^_^*)