今や、一家に一台のロボットが、あたりまえのようになった。ひとり暮らしのぼくも、初めてのロボットを買うために、パソコンの画面を開いている。

家事や子どものしつけをするおかあさんロボット。スポーツの相手や宿題を教えてくれるおとうさんロボット。話し相手をしてくれる友だちロボット……。

「さて、どれにしよう」

さんざん悩んで、

「そうだ!」

ぼくが決めたのは、お漬物を作るのがうまい、おばあちゃんロボットだった。

購入のボタンをクリックする。

毎日、お漬物が食べられるなんて、漬物好きのぼくには、今から楽しみだ。

 

おばあちゃんロボットは、すぐに届いた。

名前はもう、決めてある。

背中のコントロールパネルを開け、ボタンを押して、名前を登録する。

きよ。

それから、ぼくの名前。

たかし。

「きよさん」

と、呼ぶと、

「ハイ、タカシサン。ナンデショウ?」

と、返事をする。

 初めてのぼくだけのロボット。ぼくは、さっそくきよさんに頼んだ。

「おいしいお漬物、作って」

「ハイ、タカシサン。ワカリマシタヨ」

 

きよさんは、働き者だ。

掃除に洗濯に、ふとん干し。おばあちゃんとはいっても、そこはロボット。すごい力で、動き回る。

早寝早起きなのが、ちょっと難点だが、朝早くから起こされるようになって、ぼくも少し健康になったような気がする。

それに、きよさんのお漬物の味は、最高だ。

 

ぼくときよさんは、とてもうまくいっていた。

 

ところが、そんなある日のこと。

ぼくが会社から帰ってくると、いつも出迎えてくれるきよさんの姿がない。

「きよさん?」

「オカエリナサイ、オカエリナサイ……」

 部屋の奥から、きよさんの声がする。ぼくは、いそいで、声のする方に走った。

「きよさん!」

「オカエリナサイ、オカエリナサイ……」

 きよさんは故障していた。修理に出さなくてはいけない。

 ぼくがコントロールパネルを開けて、電源を切ろうとすると、

「マッテ!」

 きよさんがいう。

「タカシサン。オツケモノノ、ヌカドコハ、マイニチ、マゼテヤラナイトイケマセン。デモ、ソウスレバ、ワタシガイナクテモ、オツケモノガ、タベラレマスヨ。ソレカラ、アサハ、ハヤクオキテクダサイネ。ソレカラ……」

 いつまでも、終わりそうにない。ぼくは、

「わかったよ。わかったから。でも早く、きよさんを、なおさなくちゃ」

「ハイ、タカシサン。ワカリマシタ」

 きよさんの電源を切ると、部屋がきゅうに広くなったような気がした。しーんと静まりかえった部屋。

 掃除が終わったところで故障したのだろう。晩ご飯はできていなかった。ぼくは、久しぶりにコンビニに弁当を買いに行った。まっ白な満月のそばで、大きな星が光っていた。

「タカシサン。オツケモノノ、ヌカドコハ、マイニチ、マゼテヤラナイトイケマセン……」

 ぼくの頭の中に、きよさんの言葉が、ひびいていた。

「きよさん……」

 ぼくは家に帰ると、いわれたとおり、ぬか床をまぜた。中から出てきたきゅうりとなす。それを自分で切って皿に並べた。

 きよさんは、じっと動かない。

 ぼくは、携帯電話のボタンを押した。

「故障したんです! 早く、なおしてください。一刻も早く、なおしてください!」

 故障センターの人は、すぐに駆けつけてくれた。

「あなたのようなお急ぎのお客様、多いんですよ。すぐに修理いたしますから……」

 

 きよさんは、すぐに帰って来てくれた。

「デキマシタヨ」

 今日も、おいしいお漬物がテーブルに並ぶ。

 きよさんがいなくなるなんて、ぼくにはもう、考えられなくなっていた。

コメント: 1
  • #1

    しがみねくみこ (金曜日, 30 12月 2022 13:00)

    おばあちゃんロボット、欲しいです。(*^_^*)