だいたい、ぼくの家族は、変わってるんだ。

子犬や、子猫を拾ってくるのは、よくあることだと思う。

でも、パパは、仕事の帰りに、

「いやぁ、きゅうに、肩に止まってきたんだよ」

 と、インコを連れて帰ってきたし、ママは、旅行先の駐車場で、どこからか逃げ出してきたハムスターを捕まえてしまった。

 そうなると、ぼくの家族は、一致団結する。

 パパとママは、かごやエサを買う。小学二年生のぼくは、インターネットで飼い方を調べる。そうして、拾われてきた動物たちは、ぼくたちの家族になる。

 僕の家には、セキセイインコのチッチ。雑種犬のチップ。ハムスターのハムちゃんがいる。

 そんな変わり者一家のぼくたちのもとに、次にやってきたのは、世にもめずらしいものだった。

 それは、雨上がりの日。おとうさんも家にいる、土曜の朝のことだった。

 ぼくが、おかあさんに頼まれて、ゴミを出しに行った帰りのこと。道の真ん中に、手のひらに乗るくらいの小さな何かが転がっていたんだ。

「うん?」

 ぼくは、しゃがんで、それを見た。

「えっ?」

 人の形をしているけど、肌の色は真っ赤。黄色いパンツみたいなものをはいている。

 誰かが落としたキーホルダーかなと思って、そっと指で転がしてみる。と、その腕が、自分で勝手に動いたのだ。生き物だ!

これは、ぼくたち家族の遺伝だろうか。ぼくも、おとうさんや、おかあさんに負けず、すぐにそれを拾うと、家にいそいだんだ。

「おかあさん、ぼく、拾っちゃった!」

 赤くて人の形をしたその生き物を、ぼくは、手のひらからテーブルの上に、そっと置いた。

 手慣れたもので、おかあさんは、すぐに、ざるで、即席の檻をかぶせた。

 それからだ。みんなで中を、じっと、のぞく。

「何だろう。これ……」

 その答えは、ざるの中から、聞こえてきた。

「おいら、カミナリの子だよ」

「……」

 さすがのぼくたちも、息を飲んだ。人の形をした赤い生き物が、ぼくは、カミナリの子だといったのだ。たぶん、ほかの家なら、こんなことにはならなかったかもしれない。

 だけど、ぼくたち家族が考えたことは、この変わった生き物を、どうやって飼おうかということだったのだ。かごがいるかどうかもわからない。エサも知らない。インターネットで調べたって、とんちんかんなことが出てくるだけだ。

 だけど、大丈夫。カミナリの子は、話ができたのだから。

「おいらには、こんなものいらないよ」

 カミナリの子は、ものすごい力で、おかあさんがかぶせていたかごを、放り投げてしまった。

「じゃあ、エサ…、じゃなくて、ごはんは、何を食べるの?」

 おかあさんが、訊くと、

「何もいらない」

 いたるところにある静電気を吸い取って、カミナリにして出すから、食べるものもトイレもいらないらしい。

「へぇ、そうなんだ。こんなに手のかからないペットだったら、大流行しそうだなぁ」

 おとうさんが、のん気に感心する。そして、みんなで、カミナリの子の名前を考えようとしたとき、

「おいらには、ライって名前が、ちゃんとあるよ!」

 ライちゃんは、自分から名乗った。そして、

「おいら、家出してきたんだ」

 と、言ったんだ。

 ライちゃんの家族は、おとうさんと、おかあさん。それから、ライちゃんと、妹のメイちゃん。ぼくたち家族と、おんなじだ。

 そんな話をしてくれたライちゃんに、ぼくたちも自己紹介した。おとうさん、おかあさん。ぼくが、ともはるという名前で、はるちゃんって呼ばれていること。それから、妹のさき。それと、動物たち。

 すると、ぼくのおかあさんも、さすがに顔をしかめていった。

「家出なんて、きっと、家族のみんなが心配しているわ」

「うーん」

 みんな、頭を抱える。知らせたくても、カミナリとの連絡の取り方はわからない。ライちゃんも、かたく口をむすぶ。

「だいたい、とうちゃんは、おいらを子ども扱いし過ぎるんだ」

 怒っているライちゃんに、家に帰る気はなさそうだった。

「どうしよう」

 みんなで考えて、棚をひとつ空け、そこに、

ミニチュアの家具のように、ライちゃんのベットやイスなんかを入れて、部屋を作った。降りたりのぼったりするひもをつけると、力持ちのライちゃんは、するするとそのひもをつたって、棚への出入りもした。

 そんなわけで、ライちゃんは、ぼくたちと暮らすことになった。ぼくとライちゃんは、オセロや、トランプのシンケイスイジャクなんかして遊んだり、プラレールの電車の上に、乗せてあげたりした。ぼくには、むつかしくてできない将棋のやり方を覚えてしまったライちゃんは、とうとう、おとうさんを負かしてしまうほどの実力になった。妹のさきは、とにかく小さなライちゃんが、かわいくてしかたないらしく、いちいち、ちょっかいを出していたが、ライちゃんは、いやそうなふりをしながら、その目は笑っていた。犬のチップとは、ときどき、一緒に、寝ることもある。

 そんな中でも、一番、ライちゃんを重宝がっていたのが、おかあさんで、夕方や、お風呂上りには、

「ライちゃん、お願い」

 と、ライちゃんを肩の上に載せて、首に小さなカミナリを落としてもらっていた。マッサージ効果というのがあるらしい。

「あぁ、助かるわぁ」

 ぼくには、よくわからないけど、それがすごく気持ちいいんだって。

 ぼくたちは、ずっと、ライちゃんと一緒にいたかった。でもライちゃんは、ぼくたち家族を見ているうちに、家に帰りたくなっていたんだ。ぼくたちは、ちっとも、気づいていなかったので、ライちゃんが、大声で泣き出したときには、びっくりしてしまった。

「おいら、家に、帰りたいよう!」

 だけど、ぼくたちは、どうして帰してあげればいいのかわからない。

 でも、そんな心配はいらなかった。ライちゃんは、自分で帰れる方法を、ちゃんと知っていたんだ。

「次のカミナリの日に外に出れば、ぼくは空に戻っていけるよ」

 

 ライちゃんが帰ってしまう。ライちゃんのために、それが一番なのはわかっていても、ぼくたちはさみしくてしかたなかった。妹のさきだけが、よくわからず、ライちゃんにちょっかいを出しては、にこにこしていた。

 そして、とうとう、その日は、やってきた。

空が、ピカリと輝き、イナズマがとどろく。

「今まで、ありがとう」

 目じりにひとつ、涙を光らせて、ライちゃんは、

「ベランダでだいじょうぶ」

 と、いった。ぼくが手のひらに載せて、みんなでライちゃんを見送ることにした。

「あっ!」

 手のひらの上にいたライちゃんが、ふわりと浮かんだ。

「またね!」

 そういうと、ライちゃんは、風よりも早く、消えていってしまった。

家の中にライちゃんのいなくなった、ライちゃんの棚だけが、がらんと残った。ぼくたちは、毎日のように、ライちゃんの思い出話をした。さきだけが、ライちゃんがいなくなったとやっとわかって大泣きしていた。

「またね!」

 ライちゃんの最後の言葉が、耳に残る。

「また、会いたいな」

 ぼくは、ずーっと、思っていた。

 

 きゅうな雨の日だった。おかあさんが、洗濯物をしまおうと、あわててベランダに出た。と、いきなり、

「あっ! 気持ちいい!」

 ライちゃんだった。

 ライちゃんが、おかあさんの肩の上に載って、その首に、小さなカミナリを落としていたのだ。

「ライちゃん!」

 みんな、びっくりした。

「遊びに来たよ」

 ライちゃんがいった。

 嬉しくて、ぼくたちは、ライちゃんを大歓迎した。

 その日は、ずいぶん、遅くまで、カミナリのなる日で、ライちゃんは、トランプや将棋と、家族みんなと遊んだ。帰るときには、おかあさんの首にカミナリを落として、

「またね!」

 そういって、帰っていった。

 

 それからも、カミナリの日は、ときどき、ライちゃんが遊びに来る。

 だって、だいたい、ぼくの家族は変わってるんだもの!