シャリンシャリン。

 かすかな音を立て、雲の波が揺れています。

 三日月の舟は押し上げられたり沈んだりしながら、その波の上をゆっくりと進んでいきます。

 

「ああ、わたしをこの世界から救い上げて」

 たくさんの人たちがあちらこちらと、月に向かって手を伸ばすものだから、月は光の帯を放り投げると、

「さあ、いらっしゃい」

 

 救いを求めた人たちは喜んで、それはまるで誰かに追いかけられてでもいるよう。

 必死になって、上ばかりを見ながら帯をつたっていくのです。

 

 そうして三日月の舟に乗り込んだとき、自分だけでなくたくさんの人たちのいることに驚いて、

「あなたに出逢えてよかった」

 と、そういいました。

 

 三日月は漕ぎ出します。

 そこには星ばかりがまばゆく輝いているのです。

 朝もなく、夜もなく、時を忘れていられるのです。

 もう、何も、何も、何も、追いかけてはきません。

 

 ただただゆっくりと、

 シャリンシャリン、シャリンシャリン……

 波のかすかな音を聞いているだけでした。

 

「もう、何も恐れることなどないんだよ」

 月はやがてずんずんとまるくなり、救いを求めた人たちを包み込もうとしました。

 

 すると、どうでしょう。

 泣き出すものがありました。

 叫びだすものまでいたのです。

 

「どうぞ、わたしを帰してください」

「どうぞ、ぼくを日の光のもとへ」

 

 遥かなる青い星に向かって、月は悲しみに涙して、それはいくつもの、いくつもの流れ星になりました。

 その涙の星にのって、皆、自分の場所へと帰っていったのです。

 

 シャリンシャリン、シャリンシャリン……

 かすかな波の音だけが、月には聞こえてきました。

 月の舟は押し上げられたり、沈んだりしながら、雲の波の上をまた、ゆっくりと進んでいきました。

コメント: 5
  • #5

    しがみねくみこ (金曜日, 17 3月 2023 21:32)

    うわー。
    嬉しい!
    子猫のお話で?!
    こすちゃん、ありがとー!

  • #4

    こすもす (金曜日, 17 3月 2023 20:10)

    いつも素敵なお話を有難う!今回は病院の待ち時間に読ませて貰いました。
    ザワザワしていた心が落ち着きました。有難う!

  • #3

    しがみねくみこ (水曜日, 15 3月 2023 23:03)

    ちさちゅん、ありがとう!
    うん。
    月は、優しいね。

  • #2

    ちさちゅん (火曜日, 14 3月 2023 20:51)

    素敵なお話をありがとう。
    人間とは勝手なものですね。

  • #1

    しがみねくみこ (日曜日, 12 3月 2023 17:54)

    初期の作品で、昔のホームページには、自作のクレヨン絵を表紙に使っていた懐かしい作品です。