陰の薄い子どもでした。

 風のように。

 

「さっちゃんちの子どもにして」

 さっちゃんと遊べば、笑いながらこういい、

「ちいちゃんちの子どもにして」

 ちいちゃんと遊べば、笑いながらこう頼み。

 

 北風の中、透けるような白いひじとひざっこぞう。

 暗い夕暮れを、びゅんびゅん駆けて、

「ちひろ!」

 母さんに呼ばれて帰ります。

 

 こつかれながら。

 叱られながら。

 目じりに薄っすら涙をにじませて、それでもちひろは、笑っています。

 

 陰の薄い子どもでした。

 風のように。

 

「さっちゃんちの子どもにして」

 さっちゃんと遊べば、笑いながらこういい、

「ちいちゃんちの子どもにして」

 ちいちゃんと遊べば、笑いながらこういい、

 

「北風さんちの子どもにして」

 ある日、ちひろは、こう頼んだのです。

 北風の中、透けるような白いひじとひざっこぞう。

 暗い夕暮れを、びゅんびゅん駆けて。

 

「ちひろ!」

 母さんが呼んでも、もう返事はありませんでした。

 

 ひゅるひゅるる。

 北風だけが、いつまでも舞っていました。

 いつまでも、いつまでも……。

コメント: 4
  • #4

    しがみねくみこ (土曜日, 18 3月 2023 23:16)

    こすちゃん、ちさちゅん、ありがとう。
    嬉しいです。
    涙。
    子猫を、ひとりぼっちにしないでくれて、ありがとう。

  • #3

    ちさちゅん (土曜日, 18 3月 2023 21:41)

    心の中をひゅるるると風が通り抜けて行きました。

  • #2

    こすもす (土曜日, 18 3月 2023 14:54)

    うん、うん…そうだよね。

  • #1

    しがみねくみこ (土曜日, 18 3月 2023 13:14)

    逃げてもいいんだよ。