お地蔵さん

お地蔵さん

JR東労組仙台地本文化祭 童話佳作受賞

 

そうや、ここ、ここ。

ここにな。

お地蔵さんが、いてはったんやて。

おばあちゃんが、ここに引っ越してきたとき、むかーしからここに住んではった人が、教えてくれはってん。

おばあちゃんかて、その頃はまだ、かいらしい娘でな。

……おかしいか?

おかしいこと、あるかいな。

だれかて歳を取って、おばあちゃんになるんやからな。 

 

おばあちゃんが娘やったとき、その人はもう、おばあちゃんやったから、今は亡くなっていてはらへん。

そやけど、そのお地蔵さんは、その人が子どもの頃には、もうここにな、じっと立ってはったんやて。

ここで、じーっと立ってはったんや……。

 

寒い日も、暑い日も、雨の日も。

雪の降る日にかて、お地蔵さんは、動きはれへん。

あたりまえやけどな。

そうして毎日、立ったまま、子どもらのことを見守ってはったんやて。

 

子どもらのほうでは、そんなんわからへん。

いたずらして行きよる子も、おる。

ほら、お地蔵さんて、前かけしてはるやろ。

そうそう、赤いやつや。

あれを、グルグルまわしてみたりな。

 

そんでも、なかには、どろまんじゅう作ってきて、お供えのまねするような、かいらしい子もおってな。

どの子も、この子も、お地蔵さんには、ええ子なんやて。

そやから、ずっと立っとくことも、苦にならへん。

子どもらを、いつでも見守ってはったんや。

 

 そんなある日のことや。

ちいさい女の子が、そやなぁ。

まだ五歳にもならんような、ちいさい子や。

 その子が、毎日、お地蔵さんに、自分のおやつをお供えしたんやて。

どろまんじゅうと、ちゃうで。

ほんまのおやつ。

 

おやつゆうても、その頃は、キャラメルやチョコレートなんか、めったに食べられへん。

何てかいな。

そうやなぁ。

干し柿やったら、あんたも食べたことがあるやろ?

それに干しイモゆうてな、かったいけどおいしいんやで。

そうや。

酒かす焼いて、砂糖たっぷりのして食べんのもおいしいなぁ。

おばあちゃんも、食べたなったわ。

 

その子はな。

おわんに入ったぜんざいかて、こぼさんように、そーっと運んでお供えしたんやで。

 

そのおやつか?

そんなもん、夕方になって遊んで帰る頃には、子どもらは皆、お腹がすいとるもん。

だれが食べたかもわからへん。

いつのまにか、なくなっとるわいな。

 

そんなこともわからんと、その子は毎日、お供えに来るんや。

その頃は食べるもんが、あまってたわけやない。

ましてや、おやつやで。

それを我慢してお供えするんやで。

お地蔵さんも、これはよほどのことやと思いはっやんや。

 

「赤ちゃんに、届けてください」

その子は、そういうて小さい手を合わすんやて。

お地蔵さんは、スズメにでも頼みはったんかな。

動かれへんもんなぁ。

ほんで、きっとわかりはってんわ。

女の子のお母ちゃんには、もうすぐ赤ちゃんが産まれる。

それやのに、お腹がちーとも大きなりはれへん。

無事に産まれるんやろかて、皆で心配してたんや。

 

女の子は、産まれてくる赤ちゃんのお姉ちゃんやもん。

心配で、心配でしゃあなかったんや。

そやから、産まれてくる自分の弟か妹か知らん。

その赤ちゃんが大きなるようにて。

「赤ちゃんに、届けてください」

ゆうて。

自分のおやつを、赤ちゃんにあげてたつもりやったんやな。

 

「よっしゃ、よっしゃ。まだ産まれてへん子でも、子どもにかわりあらへん」

お地蔵さんは、赤ちゃんに、おやつを届けてくれはったんかなぁ。

ほんまに、お母ちゃんのお腹が、ぐんぐん大きなってきたんやて。

元気な赤ちゃんが産まれたそうや。

かいらしい男の子の赤ちゃんやて。

 

ほんまやで。

これは、ほんまの話。

その女の子ゆうんは、おばあちゃんに、この話を教えてくれはった人やもん。

間違いないわ。

 

そんなお地蔵さんが、なんでなくなったんかって?

それはな、戦争や。

おばあちゃんも、空襲警報が鳴ったら、よう防空壕ゆうてな、穴の中に逃げこんどったわ。

 爆弾が落ちても、だいじょうぶなようにな。

 

そやけど、お地蔵さんは、逃げれるか?

じーっと、立ったまま。

目の前を走ってる子どもらが、ちゃんと逃げれるように見守ってはったんや。

だーれもお地蔵さんのこと、助けてくれんでも。

 

そら、重たい石の地蔵なんか、だれも持って走らんわいな。

それでも、お地蔵さんには、皆、ええ子でかわいそうな子供らやったんや。

 

子供が戦争、起こすんとちゃうからな。

子供らは、わけもわからんと、お父ちゃんやお兄ちゃん取られて。

お腹すかして、それがあたりまえやと思てる。

お地蔵さんは、どんなにふびんに思わはったやろ。

どうか無事に逃げてくれと祈ってはったんは、お地蔵さんのほうやったかも知れんなぁ。

 

ほんでな。

とうとう爆弾は、お地蔵さんの上にも落ちたんや。

逃げれんもん、どうしようもないわな。

お地蔵さんだけやない。

草も木も、動かれへんねんから。

屋根裏のネズミかて、それを追いかけてたネコかて、空襲警報なんかわからんもんな。

お地蔵さんが砕けたように、みんな死んでしもた。

空襲警報を知っとって、逃げたからゆうても、皆、助かったわけやない。

やっぱり人間も、ぎょうさん死んだ。

 

おばあちゃんは、思うんや。

砕けたお地蔵さんはな、きっと子どもらを連れて行ってくれはったやろなぁて。

「お母ちゃん! お母ちゃん!」

死んでしもて、お母ちゃん、さがして泣いてる子の手をな。

ひとり、ひとり、つないでな。

「いっしょに、行こな」

てな。 

 

そやからきっと、お地蔵さんは、今でも、空の上かどっかで、じっと立ってはるんちゃうかなぁ。

じーっと立って、子どもらを見守ってくれてはるような気がするんや。

ここにあったお地蔵さんは、もう見れんけどな。

 

お腹すいてきたな。

そや!

スーパー寄って、昔のおやつ、さがしてみよか。

おばあちゃんも、久し振りで食べたなったわ。

干しイモか、酒かすか……

酒かすやったら、おばあちゃんが焼いたるからな。

砂糖いっぱいのしてな。

あんた、びっくりする味かもしれんなぁ。

 

おいしいて、ゆうやろか……。 

 

コメント: 10
  • #10

    まえのり (水曜日, 27 7月 2022 10:26)

    子猫さん!こすちゃん!!
    見るのが遅くなってしまいました(>人<)
    本当に嬉しいですね〜!会いたいなあ〜!!

    *こすちゃん
    お元気そうで嬉しいです!!
    ありがとうございます!私も元気に好きな仕事を続けています。
    コロナでなかなか大変ですが^^;

    *子猫さん
    あれから、PCが2〜3回変わってしまって、データが見つかりません(;;)
    「ながれぼしのよる」
    アップしてくださると、とても嬉しいです!!!
    やっぱり子猫さん、すごい!!!

    改めて見返してあの時の感動が甦ります。

  • #9

    しがみねくみこ (土曜日, 23 7月 2022 13:40)

    こすちゃん、ありがと~!
    ほんとうに、続けていくって、大切だと思います。
    うんうん。
    私は、一度、挫折してしまったけど、こうしてまた、みなさんと繋がることができて、嬉しいです!

  • #8

    こすもす (金曜日, 22 7月 2022 22:56)

    子猫ちゃん、こんばんは~。
    まえのりさん、本当にご無沙汰しています。
    こちらでお会いできてうれしいです。
    冊子とかパンフレット?のイラストとか
    頑張っておられますね。
    また、昔のようにみんなで楽しくお話出来たらいいですね。
    暑いですが、ご慈愛くださいね。
    子猫ちゃん、こちらをおかりしました。有難う!

  • #7

    しがみねくみこ (火曜日, 19 7月 2022 20:50)

    まえのりさん!
    ほんと、同窓会のようで、すごく嬉しいです。(*^_^*)
    作品の感想まで、ありがとうございます!

    なんて、素敵なお話を……。
    ながれぼしのよるも、アップしてもいいですか?
    感動して、私まで涙が。
    読書感想文まで書いてくださったんですね。
    驚いてしまいました
    想いのいっぱいつまったお話を、まえのりさんが素晴らしい絵本にしてくださったおかげです。

    まえのりさんが、また絵本にしたいと思っていただけるような作品が書けるように、がんばりますね!

  • #6

    まえのり (月曜日, 18 7月 2022 18:44)

    同窓会?!^^
    さみーさん、こすちゃん!ごぶさたです^^

    お地蔵さんという目線で描かれながら、おばあちゃんが話している。優しくて、でも戦争に対する気持ちが伝わってきて、涙がポロぽろ。。。
    ちょうどね、二人で作った「ながれぼしのよる」の事をお知らせしようと思ってきたのですが、
    あのお話も思い出させる。。。
    先日、長女の保育所の時のお友達のママに会いに行ったら、そこに下の子が生まれる前に、「ながれぼしのよる」の絵本をプレゼントしたんですって。私は忘れてたけど^^;
    もう長女も22歳だけど、あのお話が大好きで、小学校の低学年で夏休みの読書感想文を書いて、
    引っ越しした先の小学校でまた、次の年も読書感想文書いて、中学に行ってもあの本が好きすぎて(と言うか読書が苦手だったのかも笑)「私のお友達のお母さんが描いた本です」という前置きとともに、読書感想文を書いてくれたとか^^そんな思い出話を聞かせてくれて、本当に素敵なお話ありがとう!とあらためて、くみこさんには感謝です。
    また、いつか一緒に絵本が作りたいですね!!

  • #5

    しがみねくみこ (金曜日, 10 6月 2022 20:03)

    こすちゃん、ありがとうございます!
    すごく嬉しいです。
    世界中といえば、今日は、スペイン?から日本に移住されている子が、施設に見学に来られました。
    その子は、言葉がまだ出てこないそうなのですが、お母様は、めちゃくちゃ関西弁でした。(*^_^*)
    今は、いろんな国籍の方たちとすれ違うことも増えて、世界も身近に感じますね。
    本当に、世界中の子どもたちを守ってほしいです。

  • #4

    こすもす (金曜日, 10 6月 2022 18:44)

    こんにちは!素敵なお話ありがとう!こういう語り口好き!心が柔らかくなっていく気がする。
    お地蔵様、世界中の子供達を守ってくれますように!

  • #3

    しがみねくみこ (水曜日, 08 6月 2022 08:35)

    さみーさん、ありがとうございます。
    当時、橋の上で、「そうや、ここ、ここ」
    というフレーズが、急に浮かんできて、急いで帰ってお話を書いたこと。
    今でも覚えています。(*^_^*)
    ウクライナのことが、悲しいです。

  • #2

    さみー (水曜日, 08 6月 2022 08:21)

    じんわり心が温かくなるお話をありがとうございます。

  • #1

    しがみねくみこ (火曜日, 07 6月 2022 20:07)

    争いは、いつも悲しいです。