子猫と青い星

ひとりぼっちの月夜の森を、子猫はさまよっていたのです。

 前も後ろも、右も左も、捨てられた子猫には、どこなのかわかりません。

 森の小さな泉の中には、月が映って浮かんでいました。

 きらきらと、きらきらと。

 その月の中に、子猫は見つけたのです。

 青く輝く星を。

 子猫はそっと、手を伸ばしてみました。

 その輝きが、とても暖かそうだったから。

「もう少し、もう少し」

 丸くて小さな青い星は、子猫にひきよせられました。

 そうして青い星は、水からひきあげられたのです。

「あたたかーい」

 子猫はその星に、じゃれてみました。

 すると今度は青い星が、

「あたたかーい」

 青い星は流れ星。

 ひとりぼっちの月夜の森で、前も後ろも、右も左も、そこがどこなのかわからずにいたのです。

 泉に映った月を見つけて、懐かしさにその中で、ふわりふわり浮かんでいたのでした。

 子猫と青い星は、いっしょにいることにしました。

 いっしょにいることは幸せなことでした。

 子猫は青い星を、ころころと転がしてみたり、胸に抱いて眠ってみたり。

「ぼくは流れ星。だから願いごとがあったらいってごらん」

「願いごと?」

 子猫の願いは、たったひとつ。

「おかあさんに会いたい!」

 すると、どうでしょう。

 子猫のそばに、ほんとうにおかあさんが現れたのです。

 おかあさんは目を丸くしておどろいています。

 子猫にはもう何も、欲しいものはありません。

 けれど、おかあさんは、

「願いごとがかなうのなら、ごちそうが食べてみたいわ」

 子猫とおかあさんの前には、食べきれないほどのごちそうが並びます。

「ありがとう」

 子猫は、おかあさんとごちそうをほおばります。

 おいしそうに食べているおかあさんのとなりで、子猫は満足でした。

 けれど、おかあさんは、

「人間のいない御殿のような家に住んでみたいものだわ」

 森の中に、大きな御殿が現れました。

 そこは子猫とおかあさんのためだけの家でした。

 大きな御殿には部屋がいくつもあって、

「ここは私の部屋、ここは青い星の部屋、それからここがあなたの部屋よ」

 おかあさんは、部屋を割り振ります。

 子猫は自分に与えられた大きな部屋の中から、

「でもこれじゃあ、いっしょにいられないよ」

「それが贅沢な暮らしというものなのよ」

 それから、おかあさんは、

「こんな御殿にふたりきりじゃ、不用心だわ」

 青い星は、御殿を檻で囲みます。

 子猫は空を見上げながら、

「これじゃあ、小鳥も蝶々も入ってこられないよ」

 子猫は寂しくて、おかあさんの部屋へ行ったり、青い星の部屋で遊んだり。

 自分の部屋にいることがありません。

 おかあさんには、それが気に入らなかったのです。

「あの子に贅沢な暮らしというものを教えなければ」

 子猫を部屋に閉じ込めると、鍵をかけてしまいました。

 子猫も青い星も、森をさまよっていたときのように寂しくてなりません。

 いつしか蝶々の来ない御殿のまわりの花は枯れてしまいました。

 子猫も青い星も元気がなくなり、とうとう願いもかなわなくなってしまったのです。

 おかあさんは、お腹をすかせてイライラしました。

「ごちそうはどうしたの?」

「だったら檻を開けてちょうだい」

「もう、御殿なんかいらないわ」

 何ひとつ願いはかなわないのです。

「食べるものを探すのよ」

 子猫の部屋の鍵は開けられました。

 けれど檻の中には、もうどこにも食べものなどなかったのです。

「どうしてわたしを、こんなところに連れてきたの」

 おかあさんは、もとの暮らしを恋しがりました。

 おかあさんがこんな思いをするのも、子猫がおかあさんに会いたいと願ったからです。

「ごめんなさい」

 子猫は、涙をひとつ流しました。

 それから青い星のところへ行くと、

「ごめんなさい」

 涙をもうひとつ流します。

 子猫もおかあさんも、それから青い星も、そうして息をひきとったのです。

「いっしょに行こう」

 青い星が、天に昇る子猫にいいます。

「いっしょにいよう」

 子猫は青い星のそばによりそうと、もう離れることはありませんでした。

コメント: 3
  • #3

    しがみねくみこ (水曜日, 27 7月 2022 22:14)

    ありがとうございます。
    ホームページを立ち上げてくれた末っ子も、この作品を気に入ってくれました。
    ラインで、読み聞かせです。(*^_^*)

  • #2

    さみー (水曜日, 27 7月 2022 22:08)

    すごく深くて、幸せとは何だろうと考えさせられるお話ですね。胸の余韻が今も続いています。

  • #1

    しがみねくみこ (水曜日, 27 7月 2022 20:52)

    昔に書いた作品の中でも、特に好きな作品です。(*^_^*)