黄色い小鳥

スズメがこずえを跳ねるたびに、ふるんと花びらが散りました。

 公園の桜は、満開です。

 鉄柱の時計の下に据え付けられた巣箱の中で、作り物の黄色い小鳥はいつも見ていました。芽吹く草

木や、さえずるスズメ、そして子どもたちのことを。

 鉄柱の時計が五時をまわると、音楽と共に、

「五時になりました。みなさん、お家へ帰りましょう」

 子どもたちに知らせる声が、巣箱から流れるのです。

 それを合図に子どもたちは、それぞれ家へ帰ります。

 それなのにその日、ひとりの女の子がベンチにぽつんと座ったまま。

 友だちとけんかでもしたのでしょうか。

 それとも家に帰りたくないわけでも、あるのでしょうか。

 巣箱の中で、作り物の黄色い小鳥は見ていました。心配そうに見下ろしていたのです。

 桜の花びらが舞いました。

 夕暮れの花冷えのする風に乗って。

 雪よりもゆっくりと降りる花びらを、黄色い小鳥は見上げました。

 と、花びらが一枚、黄色い小鳥の上に、ふうわりととまりました。

「おや?」

 小鳥はなんだか、からだが軽くなったような気がして、深く息を吸い込みます。その胸は大きくふく

らみました。ゆっくりと羽までもが、持ち上がるのです。

 黄色い小鳥は、もう一度羽を下ろすと、今度は力強く羽を広げて羽ばたいてみました。

 ひいやりとした風が、小鳥をつつみ運んでくれます。

「飛べた! 風が、風が、ぼくを飛ばせてくれたんだ!」

 花びらのあいだをすり抜け、小鳥は女の子の肩の上に降りました。

 女の子はおどろいて、自分の肩に目を落とします。

「えっ?」

 女の子は巣箱を見上げました。肩にいるのは確かに、作り物の黄色い小鳥。

 けれど小鳥は今、生きているのです。

「ぼく、ほんとうは、飛んでみたかったんだと思うの」

「うん」

 女の子はにっこり微笑むと、夕暮れの公園を小鳥とかけまわります。

「ねぇ、どうしてお家に帰らなかったの?」

 小鳥がきいたとき、空を見上げた女の子の上にも、桜の花びらがそっととまりました。

 女の子は、桜色の小鳥になりました。

 そして二羽の小鳥は、日が暮れるまで舞い続けたのです。

 花びらをふるんと散らせて、桜のこずえにとまったとき、あたりはもう暗く、闇につつまれた小鳥た

ちには、何も見えなくなっていました。

そのときでした。

月の光が真っ直ぐに伸びて、公園を照らし出しました。

黄色い小鳥は巣箱に戻り、桜色の小鳥は女の子に戻りました。

巣箱から音楽とともに、

「さあ、みなさん。お家へ帰りましょう」

 合図が流れます。

 女の子は、家に向かって帰っていきました。

 その姿を、黄色い小鳥は見下ろして、最後に大きく息をすると、そのまま動かなくなりました。

 それからも、黄色い小鳥はいつも、見守っていたのです。

 公/園に来る子どもたちのことを……。

コメント: 1
  • #1

    しがみねくみこ (月曜日, 10 10月 2022 19:04)

    公園に実在する小鳥です。(*^_^*)